Little AngelPretty devil
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

    “夏の月” おまけ
 



昼日中のあの猛暑よりは少しマシという程度で、
長居をするなら掛けるものが要るんじゃないかというほども、
ずっと涼しい訳でなく。
それでも、
相手の気配や温みが、すぐの傍へと寄って来られるのが、
ああこの暑いのに鬱陶しいなぁとならないのは、

 “秋が近い恩恵だろうか”

相変わらず素直じゃない術師殿だなぁと苦笑なさるな、諸氏諸兄。
それよりも、
恩恵なんて言い回しを
無意識に持ち出してるところが可愛いと思わねば。

 “だな。”

ほれ こちらさんなぞ、無駄に齢を重ねちゃあいない。
心を読んだ訳ではないが、
鬱陶しいと蹴られないところから、
そういう心情へまでちゃんと気づいておりながら、だが。
あえて指摘はしないで、
細い肩へと届くよう、ちょっぴり身をかがめて額をこすりつけたれば、

 「〜〜〜なんだよ、ウチまで待てねぇか?////////」

あからさまに頷きこそしないが、
こちらは隠す必要も見栄もないですと、
素で口元ほころばせつつ“お返事は?”と見守る葉柱で。
すると、

 「〜〜〜〜〜。///////」

どっちが恥ずかしい奴なやら。
頬や耳を赤くした術師殿、しょうがないなぁという顔をして、
口元も思い切り戸惑いにたわめつつ、
それでも…否とは言わず、
彼の側からもじいと見つめ返して来るから。

  しょうがないなぁ、了解したぞという意だなと

既に擦り寄っていた間近から、それを丁重に読み取って差し上げて。
大仰にはならない所作にて、
されど 一寸でも取りこぼさぬようにと、大きく広げた尋いっぱいに。
夜陰の黒よりなお深い、漆黒の衣紋の袖裾で覆い、
誰からも隠すよにして愛しいお人を取り込む。
そのまま宙へと掻き消えてしまって、あとには風の声ばかり……。




     ◇◇◇



いつぞやにも ( 『
蛍を追って…?』 )
葉柱の案内で運んで休んだことのある空間に、
今は小ぶりな庵が建っている。
小さいものとはいえ、
今頃の時期にも風情のある佇まいを呈しており。
時折吹く夜風が、周囲の木立や梢を優しく揺らし、
涼やかさと静けさで突然の客人をもてなしてくれており。
先程まで見上げていたのと同じ三日月が、
濡れ縁の向こうの、椿だろうかよく茂った葉を青々と濡らしている。
大した調度も置かぬ庵は、
ここの主が昼寝をしに来るだけの場所だというのが
ありありしている殺風景さだが。
几帳で仕切られた奥向きの寝床に乱雑に敷かれた幾枚もの衣紋は、
選りすぐりの品の良いものばかりであり。
そこへそおと降ろされた背への当たりも心地良い。
降ろしたそのまま離れようとする相手の雄々しい首へ、
胸元から撫で上げるように手のひらを這わせてゆけば。

 「……。///」

ちらと戸惑ったのと同時、泳いだ視線が、だが、
こちらからは離れ切らぬのが、

 「………………何だよ。///////」

今更そういう態度とるか、こら…と、
蛭魔の側の口利きがついつい乱暴になるものの。
相手の純朴ぶりへ釣られたものか、
夜目にも判る耳の赤さが、
照れ隠し的な態度だというのを見え見えにしてもおり。
ああ、こういうところ可愛いんだよねぇと。

 「何でもねぇよ。」

言えないものが一つじゃないことも含め、
照れてすいませんと詫びつつの、
最初の接吻 優しく贈り。
薄いから尚更に、咥え切れぬ存在の唇にもどかしくなりながらも、
離れ際にちろんと下だけを舐めての驚かせ、

 「な…っ。」

跳ね上がる肩へと手をやって、
少しほどのけ反って開いた格好の首元へ、
顔を埋めての吸いつけば、

 「……っ。///////」

うっとも くうとも聞こえる声が出かかった口元を、
白い手の甲で慌てて塞ぐ取り乱しようが、
日頃の蛭魔とは結びつかない風情でもあり。
こちらにすれば やはり“してやったり”ではあるけれど。

 「〜〜〜〜〜。

あんまり調子に乗ると、
そのわだかまりからか なかなか気を許してくれぬ彼でもあるところ、
それもまたようよう知ってる葉柱としては。

 「すまんな。
  俺も今日は顔見てねぇから がっついた。」

間近になってたお顔へ向けて、
誰も聞いてはないというに、それでもとの低めた声で囁けば。
潤みかかった切れ長の双眸が“怒り”からの睨みを利かせていたものが、

 「………………ばか。」

ご丁寧にも拳で軽くこちらのでこを叩くのが、
幼子じみてて愛らしかったが。
そんな感慨、匂わせでもしたならば、
今度こそあまりの恥ずかしさから激発し、
屋敷へ駆け去っての結界を敷きまくるに決まってる。
このまま顔を見せてくれなくなっちゃあ大変だから、
仰せの通りでございますと、
眉を下げての謝って。
仕切り直しに唇合わせ。
頼もしい手が、しなやかな痩躯が、
やさしい束縛を互いへ伸ばす夜が始まる……。








男の性だと、コトが片付けば一気に熱も落ち着くそうで。
頂点からの昇華の直後に、たばこへ火を点けたり、
寝床から起き上がってシャワーで寝汗を流したりするのも、
特に意味はないのだそうだが。
逆に女性は事後が大事で、余韻をうっとり甘く噛みしめていたい。
性感帯が全身にあるのと一点集中なのとの差ともいえ、
頑張って盛り上げてくれた殿御を、
何て愛おしい人だろと見つめていたいのに…。
だって言うのに、相手がごそごそし始めて、
平生の日常活動へとっとと戻ってしまったりすると、
こいつ体だけが目当て?と、不審感さえ沸くそうな。

 いきなりなのはもーりんも同んなじですね、すいません。

 「…………。////////」

同じ“男”という性同士なのだから、
気持ちの動きというか、
そういう仕組みだというのは重々承知。
ほのかな疲労感に、こっちも何だか眠いくらいで。
なので、
こちらを懐ろのうちへと抱えたままの相手が、
ごそごそと寝位置を動くのが伝わって来ても、
特に感慨はなかったものが。

  ―― ぎゅうぅっ、と

なめらかでつるんと冷えた感触のする、
涼しい絹の衣紋を掛けてくれつつも。
それを挟んでの向こうから、屈強な胸板へあらためて抱き込められて。
え?え?と、降りかかっていたまぶたを上げれば、
夜陰に慣れた視野の中、
依然として甘い熱をかかえたまんまらしい相手の眼差しに捕まった。

 「暑苦しいか? すまんな。」
 「言いつつ 手を緩めねぇんじゃあ、謝ってることになんねぇぞ。」

ああでも判るなぁと、頭のどこかが苦笑をしている。
一時だって離れたくないなんて、
どんな草紙作家の冗談だと日頃は笑い飛ばしている筈が、
今の今、その心情と同じことを思っている自分だと判る。
この堅い胸板へ窮屈なくらいに抱き込められたのが、
なのに足りないか“もっとだ もっと”と思ったし。
十分に背中まで回されていた腕なのに、
何が心細かったか、こちらからもすがりついていた。
昼間の灼火より熱かったはずなのに、
片時でも離れるのは嫌だと思うたし、それは今も続いてて。


  なあ

   んん?

  月、まだ出てるか?

   いや。もう見えないな。

  虫の声がする。

   ああ。ここいらは特に草深けぇしな。


どうでもいいことだと思いつつ、
それでも訊かずにはいられない。
もっともっと声が聞きたいし、
他でもない こっちをずっと、向いててほしいから……。






   〜Fine〜  12.08.21.


  *この暑いのにすいません。
   某忍者アニメへの萌えの再燃から、
   お盆の間じゅう“カ○イル”サイトさん巡りをした反動です。
   敬語萌えとか、組織の掟萌えとか(何だ そりゃ)
   超エリートにしてクールビューティな攻め側が、
   だってのに 一般人寄りの伴侶の菩薩様みたいな優しさのトリコで、
   そんな相手へ底無しに甘いとか。
   (あ、ここってお侍部屋のシチさんに通じてないか?)こらー
   こちらのお二人とは、
   立場も受け攻めの組み合わせも、全くの全然重ならないんですが。
   風貌も逆だしなぁ…あれ?
   じゃあ何で、彼らに置き換えて萌えたのかなぁ?(知るかい)


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